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□ いの健ニュース


第27号(2010年4月16日発行) ※PDF版はこちら

早坂事案も労災認定!

2001(平成13)年より大衡運送に勤務し、スーパーやコンビニ等の陳列棚の搬入・設置や解体・撤去及び、各種の建材、医療機器、窓拭き用ゴンドラ、産業廃棄物等、さまざまな運搬業務に従事していた塩釜市在住の早坂勇希さんが自ら命を絶ったのは、2008(平成20)年9月9日(享年41歳)でした。

記者会見

4月15日労災認定を記者会見で発表。
左から被災者の父・勇一さん、妻・百合江さん・大久保弁護士、杉山弁護士

■ 自死の背景に極めて過重な労働実態/しかし、労基署は「業務外」の認定
早坂さんは長距離トラックの運転に加えて、搬送先での製品の組み立て・解体などを行う専門の技術者でしたが、08年の休日は、2月は2日、3月は5日、4月は3日、連休の続く5月でも6日、6月は4日、7月が5日、お盆の8月だけが8日という状況に加えて、4月には13日連続、5月から6月にかけては21日間連続、6、7月には13日連続、7、8月には途中1日の休みを挟んで18日間など、極度の過重労働を強いられていました。
遺族(妻)の百合江さんが独力で詳細な資料を作成し、08年11月4日に労災申請をしたものの、09年5月15日に労基署は不当な「不支給」決定を下しました。

■ 09年7月9日に労働審査官に審査請求
その後いの健センターが相談を受け、杉山茂雅弁護士、小関眞弁護士、大久保さやか弁護士とともに支援に取り組んできましたが、今回の審査官決定は労基署の形式的な判断を根底から覆すものでした。

■ 審査官決定の概要
平成22年4月8日付の宮城労働者災害補償保険審査官の決定の基本は、仙台労働基準監督署長が請求人らに対してなした「不支給」処分を取り消すとし、被災者の疾病・死亡は「業務上の事由」によるものであることを明確に認定しました。
その主な内容は以下のとおりです。

1.対象疾病に該当する精神障害の発病
請求人・妻の申し立てによると、平成20年5月以降の体重の急激な減少や同年7月後半からの食欲不振等に認めることができるが、当審査官も~遅くとも同年8月未までには、本件疾病を発病していたものと判断する。

2.仕事の量・質の変化
① 被災者の一般貨物運送の運行先は、平成20年以降、東北地方以外の遠距離地域が前年よりも増加して、月間走行距離も、前年度平均走行距離より増加している事実が認められる。
また、遠距離地域には、往復約1000kmの富山県が加わり、同県への運行後、被災者は疲労を訴えるようになった。
これらのことは、「勤務・拘束時間が長時間化する出来事が生じた」に該当し、平均的な心理負荷強度は「Ⅱ」と評価される。
しかし、被災者は、同年2月以降、毎月100時間前後の時間外労働を行い、拘束時間も毎月300時間を超えることから、恒常的な長時間労働の実態があったものと認め、心理的負荷の強度を「Ⅲ」に修正する。
② 同年8月半ば以降、福島県いわき市方面におけるスーパーチェーンf関係の搬入等作業が被災者に集中するようになり、当該作業の責任者的立場にも就いていた。
このことは、「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」に該当し、平均的な心理負荷強度は「Ⅱ」と評価される。
しかし、この時期の搬入等作業をみると、片道4時間の場所に移動した後9時間以上の作業を行なったり、前日午後10時40分に終業し、翌日午前5時には始業を開始するなどの勤務実態も認められ、恒常的な長時間労働が解消されているとは認められないことから、心理的負荷の強度を「Ⅲ」に修正する。

3.身分等の変化
賃金の切り下げ等は、~平均的な心理的負荷の強度を「Ⅱ」とする。

4.対人関係のトラブル
部長の対応について、~平均的な心理的負荷の強度は「Ⅱ」と評価される。

5.強度の総合評価
被災者には、上記のとおり、平成20年2月以降から発病するまでの間に、毎月100時間前後の恒常的な長時間労働がみられる。
また、この間の被災者の勤務実態をみると、毎日の始業、終業時刻が一定しないこと、1日の拘束時間や労働時間も日々変動していること、労働日の半分程度が深夜労働であること、日勤勤務でありながら、車中での仮眠を余儀なくされる2日にわたる運行が最大で月5回(延べ10日)程度組み込まれいたこと等の実態があり、被災者は、家庭において心身の疲労を回復し得る程度の睡眠時間を安定して確保できる状況になく、心身の疲労がかなりの程度蓄積されるような勤務実態にあったものと言わざるを得ない。
さらに、被災者は一般の乗務員とは異なり、運転とは別の肉体労働と技術的な熟練が求められる搬入等作業に、月平均7日程度従事していたものであり、平成20年8月半ば以降には、同作業が集中し、同作業の責任者的立場にもなった。
しかも、正社員として搬入等作業を担当できる者は被災者のみであり、他の同僚は、定年後の再雇用者であり、遠からず引退していくことが明らかであるのに、後継者の確保という会社の支援も受けていない事情も認められる。
以上の事情を総合的に考慮したとき、被災者に生じた出来事後の状沢が持続する程度は、「相当程度過重」と認められる。
したがって、~当審査官は、判断指針により、被災者の業務による心理的負荷の総合評価を「強」と判断する。

6.不支給処分の取り消し
以上のとおり、本件審査請求に係る被災者の疾病と、これによると推定される死亡については業務上の事由によるものと認められ、したがって、監督署長が請求人に対してなした遺族補償給付及び葬祭料の不支給処分は妥当ではなく、取り消されるべきものである。

滋賀県/教員のアスベスト被災事案で初めての公務災害認定!

全教滋賀教組の報告によると、2010年4月7日付で、地方公務員災害補償基金審査会(中央審査会)は、被災者の死亡原因となった胸膜中皮腫について、「岩根小学校体育館における動務を通じて石綿にばく露したことにより発症したものと認められる」ので、「公務に起因したものと認めるのが相当」という画期的な裁決を下し、逆転で公務災害認定を得たことが分かりました。

全教滋賀教組は今回の勝利について、以下のように評価しています。
基金支部の「公務外」認定や支部審査会の棄却裁決は、「石綿工場などに比べて桁違いに低濃度であることや、仮にばく露があったとしても教員の仕事を授業等狭い範囲に限定して公務遂行中ではない」とするなど、アスベストの危険性を過小評価し、ばく露の機会を意図的に公務外に求める不当なものでしたが、中央審査会は請求人らが主張した体育館でのアスベストの飛散状況や古澤さんの体育館での勤務状況などを全面的に採用し、逆転勝利の裁決を下したものです。

第1に、比較的低濃度、短時間のばく露でも中皮腫を発症することを認定したことで、アスベストに係る労災や公務災害の認定基準の運用に前進的影響を与えること。
第2に、労災に比べて公務災害認定が圧倒的に遅れている現状(昨年8月に認定された浜松市職員事案1件のみ)を突破したこと。
とりわけ07年の環境省調査で、職業上アスベストとの関係が不明とされた820人のうち61人が教職員だったが、教職員が公務上の災害と認定された事案はゼロ。
今回の裁決は、今後の教職員のアスベストによる公務災害認定の道を開いたこと。
第3に、今回の裁決は、アスベストが存在すれば普通の学校で普通に勤務をしていても中皮腫を発症する危険性を認めたものであること。

2002年4月に古澤康雄さんが亡くなって8年、2005年11月にご遺族が公務災害申請をされて4年半の間、長い厳しいたたかいでした。
このたたかいは請求人と「故古澤康雄さんの公務災害認定を支援する会」を中心にすすめられましたが、全教本部や働くもののいのちと健康を守る全国センターの皆様には、基金本部交渉や審査会での意見陳述など全面的にご支援をいただきました。
また、各県・高教組の皆様からはたくさんの署名やカンパ、激励を寄せていただきました。
こうした全国連帯が勝利に向けた大きな力になったことは間違いありません。
皆様の物心両面からの温かいご支援にあらためて感謝申し上げ、取り急ぎの報告と致します。

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