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第23号(2009年12月11日発行) ※PDF版はこちら

赤坂事案、笠原医師が証言

被告側証言はまさに“やらせ”仕事は最も楽だった、
精神的負担は全くなかった、彼が具合悪いなど誰も知らなかった等々

ニュース第22号で、10月15日(木)の原告本人(母親、優子さん)の証人尋問の様子を紹介しましたが、今回は11月26日に行われた原告側の笠原英樹医師の証言を中心に紹介します。

笠原医師の証言は、各団体での学習資料としても学べるものですから、重要なポイントは出来るだけ詳細に記したいと思います。

■ 笠原英樹医師の証言から

うつ病の認定について

Q(原告側弁護士)  先生の意見書では「死に至るまでの様子から考察」し、結論としてICD-10における典型的エピソードを満たしているとして、平成18年2月末には中症うつ病に陥っていたとするが、ICD-10とは何か。
  精神疾患の一般的に認められている診療基準である。
被災者は、少しずつ精神的疲労を増しており、2月ごろには「ICD-10のうつ病分類」における主症状3つおよび、不眠や食欲不振等のその他の症状が4つみられ、程度も日常に支障をきたしはじめていたほどのものと推定でき、中等症うつ病エピソードであったと判断した。
Q(原告側弁護士)  被災者本人からの問診はできなくても、それでもうつ病と判断できるか。
  もちろん亡くなった人から聴くことはできない。
だからこそ、身近にいた家族から生前の様子を聴くことが重要になる。
なぜなら、家族の話が、亡くなった患者さんの訴えに代わりうるものだからである。
精神科を受診されている患者さんでも、心を病み、うつむいたまま、苦悩し、医師の問いかけにも答えられないほど判断力、理解力が低下している人が少なくない。
その場合は家族から話を聴き、内容を理解し、共感することが、診断、治療につながる。
亡くなった患者さんの場合も同じであり、本件の場合も家族から話を聴き、理解し、共感することにより、うつ病だったと診断した。

長時間労働について

Q(原告側弁護士)  法律等では長時間労働について規制してるわけですが、産業医学の観点から、長時間労働の労働者の身体及び精神面に対する危険性について説明してください。
 長時間労働に関しては労働安全衛生法(労安法)において、月100時間超、又は2~6月にわたる80時間超の時間外労働をしている労働者を面接指導・診断の対象者としています。
労安法では、時間外労働は月45時間以内に抑えるよう基準を設け、80時間を超える時間外労働が連続すれば、疲労が蓄積され、身体に悪影響を及ぼす危険があるとしています。
長時間労働による疲労が自律神経の働きを不安定とし、その結果、体の調節に支障をきたし、血圧も不安定となり、脳や心臓の血管に影響を及ぼすからです。
医学的に考えれば、自律神経の働きが不安定になるということは、身体だけではなく精神の調節にも影響をあたえるのは当然なことです。
ですから、労安法においても長時間労働による精神面への影響を重視し、長時間労働者に対する産業医の面接指導では心身両面に対するチェックを求めています。
厚労省の委託により産業医学振興財団が作成した長時間労働者への面接指導マニュアルでもこのことを指導しています。

長時間労働と常夜勤労働の競合の場合

Q(原告側弁護士)  被災者の場合、深夜の長時間労働です。すなわち、長時間労働と深夜労働が重なっている場合、競合している場合の身体に対する影響についてはどのように考えられるか。
 長時間労働も深夜労働も、そのどちらも心身に対しては極めて危険なストレス因子となります。
その両方が同時に連続的に重なった場合は、健康体にストレスが加わるのとは比べものにならないほど急激に疲労し、また両方のストレスが相乗的に作用し、身体に対する危険性は何倍にも増すということになります。
Q(原告側弁護士)  恒常的な深夜労働の危険性について、話してください。
A  人間の心身の働きは、交感神経と副交感神経の2つの自律神経で調節されています。
これは、日中は体を活動させる交感神経が優位に働き、夜になると体の働きを休ませる副交感神経が優位に働くといった体内リズムによって、心臓の働きや胃腸の働き、あるいは血圧のコントロールや感情のコントロールといった心身全体の働きが安定するよう調節しています。
ところが、深夜労働が恒常的になれば、本来は副交感神経が優位に働くべきときにそれを抑え、体を活動させるために交感神経を無理に働かせることになります。
逆に日中は、交感神経が優位に働くべきなのにそれを抑え、体を休めるための副交感神経が働かなければならなくなります。
結局、人間が本来持つ恒常的な体内リズムが狂ってしまい、その結果、自律神経がうまく働かなくなり、心身の不調などさまざまな悪影響が出現することになります。
したがって、深夜労働に対しては特別の配慮が求められ、労働安全衛生規則第45条第11項においては、坑内労働や深夜労働等の有害業務に常時従事する人を特定業務従事者健康診断の対象者として定めているのです。

大方医師がうつ病に触れていない点について

Q(原告側弁護士)  被災者を死亡直前に診察した内科医の大方医師が、「精神的な症状については考えなかった。」と言っているが。この点どう思うか。
A  大方先生の言葉は、被災者の死亡後に母親から経過をきいて、診察当時はうつ病とはわからなかったという意味で「depression unclear」と書き記したわけです。
当時は、診察でもうつ病とは全く考えなかったということだと思います。
しかし、それは当然なことだと思います。
熱があり、インフルエンザの疑いがあり、胃潰瘍が疑われる患者さんを目の前にした場合、内科的な迅速な診断、治療が第一となるわけです。
精神疾患を予測し鑑別診断するには、よく話を聞き、経験則的に分析しなければなりませんから時間がかかります。
熱があり、吐き気を催し、具合が悪い患者さんに、内科医としてまずしなければならないことは、診断に基づく早急な内科的治療なのです。
大方先生は内科的症状を訴えていた被災者に対して、内科的見地で診察し、対処したのです。
精神科的な診察はしてなかったのですから、うつ病とはわからなかった、頭になかったと振り返ったのです。
精神的疾患を疑ったが、それを否定し内科的処置をしたというのとは違いますから、大方先生の診断や「Depression unclear」の記録をもって、うつ病ではなかったとする根拠とはできません。
私のクリニックにも高熱でインフルエンザではと疑われる患者さんが来ます。
そのような患者さんに対して、精神科的な心の内を探ることはしません。
まずしなければならないのは、インフルエンザかどうかを検査し、それに対する治療をすることです。
精神科医の私でも、このような場合は大方先生と同じように対応しますから、その時点ではその患者さんがうつ病かどうか、私の頭にはないのです。
さて、後日、被災者の母親から亡くなったことを聞いたときに、なぜ「Depression unclear」と記したのか、なぜ「Depression」という病名を使ったのかということです。
もしかすれば、大方先生も母親から経過をきいた時点で初めて、彼は「Depression(うつ病)」だったのではと疑ったのではないでしょうか。
だから「診察のときはうつ病とは判らなかった」という意味で記したのではないでしょうか。

睡眠時間や深夜勤務への慣れについて

Q(被告側弁護士)  うつ病にとっては長時間労働よりも睡眠時間の方が影響あるという研究報告があるが、被災者は十分な睡眠時間を取っていたのではないか。
 そういう研究報告はある。同時に、睡眠の時間ではなく、睡眠の質の問題も考えなければなりません。
例えば、午前10時から18時まで横になっていたとしても、明るい中で、しかも騒々しい中で、さらに言えば生体リズムに反して、どれだけ熟睡できるかどうか、疲労を回復できるかどうかが重要だと思います。
日中の睡眠は深くはなり得ません。
Q(被告側弁護士)  恒常的な深夜勤よりも交替制勤務の方がリズムを崩すという見解はないか。
A  確かにある。しかし、どちらが楽かを議論しても意味はない。
そもそも恒常的な深夜勤は、毎日交感神経と副交感神経のバランスを強制的に抑えなければならない。
要するに、毎日時差ボケ状態で仕事をしなければならないということであり、心身の負担は計り知れない。
生体リズムの変更は努力してできるものではなく、夜勤慣れなどということは絶対にあり得ない。

■ 被告側証人に対する尋問から(2人の証言をまとめています)

被災者の仕事内容、仕事量について

Q(被告側弁護士)  被災者が担当していた仕事について話してほしい。
  基調品質でドライバーが持ち込んだ品物を発送先別に仕分けます。
チケットや商品券が多く、肉体的にきついことはない。
量もわずかであり楽だった。被災者からも「冷暖房が効いていいところだ」といわれていたし、グチや不満は聞いたことはない。
仮眠も取れたし、土日は仕事量が少ないから休憩も2時間は取れた。
Q(被告側弁護士)  被災者の私生活はどうだったか
 何回かお金を貸したことがある。他の者からも借りていたと思う。
給料の前借りもしていたようだ。サラ金からも借りていたはずだ。
パチスロが趣味で、家のローンで苦しいとか弟の車の事故で200万ほどかかったとか、金もないのに家族で温泉に行ったことへの不満や「何で俺だけが働かなければならないんだ」というグチは聞いていた。
Q(被告側弁護士)  体調は悪そうにしてなかったか?
 3月に休んだ時は「十二指腸潰瘍」だとか言っていたが、金が入らなくなるのが辛いと言っていた。
日常的には仕事上のトラブルもなかったし、体調が悪くフラフラするような様子は見たことがない。
Q(原告側弁護士)  あなたは会社の労安担当者か?
安全管理についてどういう教育を受けているのか?
これまで何回受けましたか?年何回ですか?
A・A2  担当者ではない。どういう教育を受けたかとか回数は覚えていない。
Q(原告側弁護士)  あなたも常夜勤だったと思うが、あなたの労働時間や被災者の労働時間がどのくらいだったか分かりますか?
A・A2  分かりません。
Q(原告側弁護士)  長時間労働って、どの程度の労働時間だと考えるか。
A2  一般的には8時間だと思う。
Q(原告側弁護士)  被災者は時間外労働をしていたのではないのか。
A2  自分で残っていただけだと思う。仕事はなかったはずだ。
Q(原告側弁護士)  時間管理は誰がしてたか。
タイムカードはどこにあるのか、仕事場から遠いのか。
A2  特に労働時間の管理はしていない。タイムカードは仕事場とすぐの中二階事務室にある。
Q(原告側弁護士)  タイムカードのある事務室が仕事場のすぐ傍なのに、仕事が終わったにもかかわらずタイムカードの打刻だけが遅くなるということがあるか?
 (何も答えられず無言)
Q(原告側弁護士)  残業はたまにしかなかったと言ったが、8時間を超えるのは?
  殆ど毎日になった。
Q(原告側弁護士)  派遣会社が作った出勤表では毎日19時に出勤し、退社は朝の7時~8時になっているが、8時間過ぎた段階で誰かが帰れと言うのか。
A2  言わない。
Q(原告側弁護士)  サラ金からの借金について、領収書の束を見たと言ったがいつ頃のことか?
 覚えていない。
Q(原告側弁護士)  別の従業員は「金銭の貸し借りについては聞いたことがない」と労基署の調査に対して答えているが。
 多くの人は知っていたと思うが~(あとは無言)。
Q(原告側弁護士)  あなたは被災者の体調について、「具合が悪いということは見たことも聞いたこともない」と記述にはあるが、Aも別の方もは「3月に入ってからは体調が悪いというのが目に見えて分かった」と聞き取り調査には答えている。
A2  私には全く分からなかった。私にはそぶりを見せなかったのかもしれない。

そもそも労働保険審査会が「赤坂さんの過重労働があった」と認め、労災認定をしたにもかかわらず、被告側があくまでも過重性を否定し、損害賠償の支払いを拒む姿勢を続けること自体、亡くなった労働者の尊厳を踏みにじるものだと言わざるを得ません。

最終弁論は2010年2月2日(火) 仙台地裁で10時45分です。

出来るだけ多くの方の傍聴で、最後を締めくくりたいと思います。
過労死・過労自死に対する理不尽な判断を許さないために、是非ご協力下さい。

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