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□ 労働相談  センターだより


第2号(2009・08・10) ※PDF版はこちら

8月の事例検討会から

8月10日に県労連事務局メンバー3名(高橋、鎌内、八島)と労働相談センターの相原相談員、いの健センターの富樫事務局長の5名で、2度目の事例検討会を開催しました。
八島さんが集約している相談件数の推移を見ると、07年は年間合計で181件の相談でした。
08年は336件に急増しました。ところが今年(09年)は、7月末までで389件になっています。
相談内容も、07年で多かったのは未払い問題が51件、解雇30件、労働条件切り下げが28件だったのが、08年は解雇・退職強要111件、未払い60件、労働条件切り下げが26件となっています。
09年は解雇・退職強要が一番多く139件ですが、未払い81件に続いて、セクハラ・いじめの44件や労災・職業病21件などが目立っています(参照:09年度 労働相談月別集計表)。

相談事例2  この解決内容で良かったのかどうか
-15年間もアルバイトで働き続けた女性(Iさん)の解雇問題-

相談内容 (初めての相談は5月20日)
・上司から「6月末で契約を解除する。更新の予定はない」と言われたがどうしたらいいか。
・いじめ・パワハラ・差別でうつ病になったが、訴えることはできるか。
・もう勤める気はないが、会社に対して泣き寝入りしたくない。何を求められるか。

相談の経過から分かったこと
・うつの発症、通院は4年前から。きっかけは母親(パーキンソン病)の介護による疲労。
・差別や不公平感を覚えるようになったのは2年ほど前から。
 会社で「この頃おこりっぽくなった」「仕事に集中してない」と言われたり、後輩の女性(Sさん)にだけ
仕事を回すので、「いじめられてる」とか「差別されている」と感じたようだ。
・今年の5月、同僚と直属上司がIさんの評価についてやりとりしていたメールが、Iさんのパソコンに混入。
 上司のメールには「これまでの貢献も踏まえ~」とか「恨みや辛みが残らないようにするために苦慮し
ている」とIさんへの配慮も記されていたのだが、「評価できない」「使えない」「Sさんにも負担かけてい
る」などという自分への評価をしている同僚と上司とのメールに大きなショックを受け「パワハラ」された
と思ったらしい。それが、うつの憎悪を引き起こしたことは間違いない。
・しかし、この間の出来事だけでは「いじめ・パワハラ・差別がうつ病の原因」とは言い切れない。
・初めて相談を受けたのは5月20日だったが、すごく陰鬱な感じがしたし、睡眠障害、摂食障害や自殺願望を訴えており、勤務は無理な状態と感じた。うつによる仕事への対応の変化や人間関係への過敏な反応が、彼女へのマイナス評価につながっていったことは確か。

解決策
・当初、業務起因によるうつ病ということで労災申請も考えたが、いじめ・パワハラの立証は無理と判断。
・本人の健康状態や「会社には行きたくない」という訴えからも、早期の解決が必要と判断。
・本人に対しては「早く解決して体を休める方がいい」ことと、会社と争っても勝てる見通しは少ないことを伝え、本人の希望から「・謝罪を求める・会社都合と書かせる・金銭解決したい」ことを確認。
また、生活への不安については、「生活保護」や「障害者年金」の受給の道があることも話し、引き続き相談にのることを約束。
・会社交渉では以下のことについての対応を求め、特に「合意できる内容」について話し合う。
1)メールの内容について、上司が直接謝罪すること
2)離職理由は「会社都合」とすること
3)15年の勤務を無視した一方的な契約解除であり、合意を得る内容を検討すること。

会社の回答内容
1)営業所の責任部長同席のもとで、直属の上司から直接謝罪させる。
2)「会社都合」については異存ない。
3)同意していただけるなら、7月分の賃金は満額支給する。さらに、見舞金として1ヶ月分を支払う。
というもの(7月は出勤していないので、実質的に2ヶ月分の和解金)。
・もともと本人は退社の意思だったし、勤務は不可能な状態(回答当日もリストカットして、手首は絆創膏だらけ)だったので、早く解決すべきと判断し7月29日に和解・合意する。
・しかし、終わったあとで「もっともらいたかった」という不満を表明された。

評 価
・このケースは、基本的に過重労働とは言えないし、いじめ・パワハラがあったと言えるかどうかも微妙だし、労災申請しても「うつ病の業務起因性」を立証するのは困難だろう。
・会社側へのペナルティ(慰謝料)をどれだけ要求すべきかで評価は分かれるだろう。
「間違った対応」とは言えないが、「十分な対応だったかどうか」検討課題は残ると思う。
・「取るものは多ければ多いほどいい」という考え方もあるが、そういう考え方がいつも正しいとは限らない。
要求そのものが無理な場合もあるし、早期解決が大事な場合もある。
・本人の病気の原因や現状を考えると、やむを得ない範囲の解決だったのではないか。
・結果への評価は別にして、会社が誠実に対応したというのは、会社も早期解決を願っていたのだろう。
・普通は病気を理由に「自己都合退社」にされかねないが、「会社都合」とさせたことに意味がある。
・5月20日から7月末までに7,8回の電話・面談相談に応じているし、来るといつも1~2時間も話を聞いてやっているのを知っていたが、病状から考えても早期解決は大事な観点だったと思う。2ヶ月分の補償、「会社都合」による失業保険の早期受給、生活保護や障害者年金についての引き続きの援助まで考えると、精一杯の対応だったのではないだろうか。

相談への対応は、相手の状態、希望、会社の反応などによって、その都度検討が求められます。
場合によっては、他の相談施設や弁護士に依頼しなければならないものもあります。
その判断が難しいし、結果オーライの場合もあれば、どんなに努力しても満足してもらえないこともあります。
今回の事例も、検討すればするほど学ぶものが多い、参考になる事例でした。
「議論を重ねることによって相談員も成長できる」ことを実感した事例検討会でした。

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